新しい場所、新しい自分
春の風が頬を撫でる。
桜の花びらが舞い落ちる中、私は湯川学園の正門の前に立っている。
新しい制服が少し硬く感じて、肌に馴染むまでには時間がかかりそうだ。
鞄の中には、昨日、何度も確認したスケジュール帳が入っている。
入学式、ホームルーム。そして、人生初の「新しい場所」。
「やれるかな……」
小さな声で呟く。この声は誰にも届かない。私自身の不安を押し込めるためだけに発した言葉だから。でも、ほんの少しだけ、その言葉に勇気を感じる。自分でも不思議だ。
校門をくぐると、賑やかな声と笑顔が目に飛び込んできた。どの声も、どの笑顔も知らない人たちのもの。でも、きっとこの先、少しずつ変わっていくのだろう。
一人ひとりの顔が覚えられ、名前が浮かび、会話が自然になって――
「私もここで生きるんだ」と実感できる日が来る。
教室のドアを開けた瞬間、すべてが一度に目に飛び込んでくる。白いカーテンが揺れる窓際の席、教科書や筆箱を並べる生徒たち、そして、彼の姿――。
まだ名前も知らないその少年が、静かにこちらを見ていた。目が合った瞬間、微かに笑みを浮かべて、そしてすぐに視線を逸らした。心の奥で何かが動いた。まだ形にはならないけれど、初めての出会いが私に新しい感情の芽生えを告げていた。
「おはようございます、湯川学園へようこそ」
担任の声が響き、教室の中のざわめきが一瞬だけ止まった。私は深呼吸をして、彼らの中に飛び込む準備をする。
「私、変われるかな」
心の中でそう問いかけながら、笑顔を作った。新しい私の始まりだ。
幼さの向こうに見つけた「好き」
最初に見たとき、正直ちょっと地味な子だなって思った。
入学式の日、隣の席に座ってたあの子は、誰とも目を合わせずにずっと下を向いてて、髪も顔にかかってて。「友達できるかな……」って呟いた声が、やけにリアルで、なんかこっちまで緊張したのを覚えてる。
でも、一ヶ月したら変わった。髪をピンで留めて、前よりちょっと顔が見えるようになってて。なんか、ピースサインとかし始めたし。謎にちょっかい出してくるし、たまにめっちゃ変なこと言うし。思ってたより、元気なやつなんだなって。
半年経った頃には、なぜか髪を短くして、変な後悔してて。
「短くしすぎた……」って何回も言ってて、あれはちょっと笑った。しかもそのくせ人前ではちゃんと笑顔でピースしてて、なんか偉いなって思った。
一年が過ぎた頃には、もうすっかりクラスの人気者って感じで。前より明るくなって、よく喋るようになって、友達も増えて。それなのに、俺のことはずっとからかってきて。
ピースピースってうるさいし、カメラ向けると変な顔するし、でも――
その笑顔が、やけに目に焼き付くようになったのは、その頃からだった。
そして卒業式。
金髪になって、ポニーテールで、まるで別人みたいな顔で、卒業証書持って振り返ったあの瞬間。
「何見てんだよ」って言われたけど――
いや、そりゃ見るだろ。ずっと一緒にいたんだぞ?
三年間、笑ったり怒ったり、なんか急に雰囲気変わったりしながら、隣にいたんだ。今さら見とれるなって方が無理だ。
……なぁ、知ってた?
お前の変化、俺、たぶん誰よりも見てたんだぜ。
隣にいてくれて助かった
俺はたぶん、勉強とか静かな時間とか、そういうのがすっげー苦手なタイプだった。小学校までは、それでもなんとかなってたけど、中学入ってからは毎日がマジで大変でさ。
体育と部活だけが頼りの毎日。
だから、入学当初は「やべーなこの先」って、内心焦ってたんだ。
そんなとき、俺の前の席に座ったのが、あいつだった。
ちっちゃくて、おとなしそうで、話しかけても最初は「うん」とか「そうなんだ」くらい。でも、なんか……いつも俺の話をちゃんと聞いてくれてたんだよな。相槌の打ち方とか、返すタイミングとかが、自然で。
「あー、ちゃんと聞いてくれてんだな」って、妙に安心できた。
授業中に俺がノートとってなかったときも、何も言わずに、自分のノートをスッと見せてくれた。「写す?」って、ほんの小声で。しかも字がきれいで、図とかも色分けしてあって、すげー分かりやすかった。俺、なんかそれ見てちょっと恥ずかしくなってさ……
それからは、ノートだけは真面目に取るようになった。
テスト前には「ここ、出そうだよ」って、自分のまとめノートをコピーして持ってきてくれてさ。「いいのか?」って聞いたら、「うん、教えるの好きだから」って笑って。そういうとこ、ズルいんだよなあいつ。
優しいっていうより、なんかこう……空気みたいに当たり前にいてくれて。
気がついたら、俺の中で「特別」になってた。
体育祭のリレーで、俺がゴールした瞬間に、まっすぐ駆け寄ってきてくれて、「かっこよかったよ!」って、あの笑顔で言われたとき――
正直、それだけで全て報われた気がした。
俺、きっとアイツに、支えられてたんだと思う。何気ない一言とか、笑顔とか、ノートの中のきれいな文字とか。それがなかったら、もっとしんどかったと思う。
なあ、今だから言うけどさ――
あのとき、隣にいてくれて、マジで助かったんだ。ありがとう。
置いていかれた気がして
最初に仲良くなったのは、小学校に入ったばかりの春。
私のとなりの席で、まんまるい目をして、お弁当のふたを開けられなくて困ってたあの子を見て――思わず手を伸ばしたのがきっかけだった。
それから、ずっと一緒にいた。一緒に帰って、一緒に宿題して、休日はお互いの家を行き来して。親にも「もう姉妹みたいだね」って言われるくらい、ずっと、ずっと。
でも――中学に入って、少しずつ変わっていった。
前よりキレイな髪留めを選ぶようになって。文房具も可愛いの揃えて。制服の着こなしだって、いつの間にか、ちょっとだけ垢抜けてて。
「え、そんなの持ってた?」って聞いたら、「ううん、最近買ったんだ~」って、当たり前みたいに笑うその顔が、なんだか少しだけ、遠く感じた。
私が知らないあの子が、クラスの中にはたくさんいる。男子と気軽に話して、スキンシップだってぜんぜん平気で、誰とでも楽しそうにしてて。
前は、私とだけ笑ってたのにな――って、思っちゃう私は、ちょっと子どもすぎるのかな。
変わっていく彼女を、私はただ見ていた。
手を伸ばせば届く距離なのに、どうしてか、何も言えなかった。
でも、それでも。
あの子が困ってるとき、泣きそうな顔をしてるとき、私のことを探してくれるのは、きっと今でも私だけ。
それが、少しだけ誇らしかった。
だから、離れないよ。どんなに変わっても、どんなに遠くなっても。
だって私は――ずっと前から、あなたの隣にいたから。
あんた、案外やるじゃん
最初はさ、正直ぜーんぜん気にしてなかった。
まじめそーで、地味そーで、なんかテンション合わなそーって思ってたし。休み時間とかも、いつもおんなじメンツといてさ。ほら、そーいう子いるじゃん? 自分の世界で生きてますみたいな。
でもさ、ある日うち、図書室で宿題忘れて焦ってて。
そしたら、その子がさ、すってシャーペン差し出してくれて、「どうぞ」って。しかも、めっちゃふつーに! めっちゃ自然に!
……え、なにそれ。カッコよ。って思っちゃったよね。しかもさ、それがめっちゃいい香りすんの。あーこの子、こう見えてちゃんと「女の子」してんだ、って。
なんかその瞬間から、気になり始めちゃったんだよねー。
で、そこからよ? ちょこちょこ話すようになって、一緒にプリ撮ったり、スタバ寄ったり、スカートの折り方相談したり――
気づいたら、なんかふつーに友達になってた。
あの子、しゃべるとめっちゃ素直で、すぐ照れるくせに否定はしないし。なんかさ、そういうとこがズルいんだよ。あたしらがノリで「ギャル化計画~」とか言っても、困った顔しながら付き合ってくれるし。
で、最終的にはめっちゃ似合っちゃってるし!
正直ね、あの子、あたしたちの中じゃイチバン「伸びしろ」あったと思う。最初からキラキラしてる子より、だんだん変わっていく子の方が、惹かれるっていうか。
……って、あたし何語ってんの? らしくないじゃん、マジうけるんだけど。
でもまあ、まとめるなら――
あんた、案外やるじゃん。あたし、好きよ、そういうの。
わたしの心のなか
ねえ、みんな、ありがと。
直接言うのは、なんか照れるから、ここでだけ。心の中でだけ。
三年前のわたしは、正直言って――地味で、平凡で、なんとなく人の顔色をうかがってばっかりの、つまんない子だったと思う。
でも、君たちと出会って、ちょっとずつ、変われた気がするんだ。
最初に話しかけてくれたのは、あの中二っぽい男子だった。
口は悪いし、すぐ茶化すけど、何気に目ざとくて、ちょっとした変化にも気づいてくれて。
君がぼそっと言った「可愛いじゃん」って、その一言、実は今でも覚えてる。
わたしのことなんて誰も見てないと思ってたからさ、すっごく嬉しかったんだよ。…言わないけどね!
体育の時間に、一緒にバスケしたことあったよね。スポーツ万能男子くん。
本気でやってたら、「やるじゃん」って目を丸くして言ってくれた。
誰かにちゃんと認めてもらえたって感じがして、その日からちょっと、背筋が伸びた気がする。
一番長い付き合いの親友ちゃんは、たぶん、全部見透かしてたよね。
わたしが「ちょっとだけ可愛くなりたい」って思ってるの、ずっと前からバレてたんでしょ?
さりげなくヘアピンくれたり、放課後にメイクの話してくれたりしてさ、ほんとズルいよ。優しすぎるんだもん。
でさ――あのギャル女子。最初はマジで苦手だった(笑)
声でかいし、距離近いし、テンション高すぎだし。
でも、いつの間にか一緒にプリ撮ってて、「もっと攻めた服着なよ〜」って言われて、
ふと鏡見たら、ちょっとだけ自分のこと好きになれてるわたしがいた。
中学三年間、あっという間だったけど。
いろんな人と関わって、ぶつかって、笑って、泣いて――
気づけば、卒業式の日のわたしは、ちょっとだけギャルで、でもちゃんと「わたし」だった。
みんながくれた言葉も、まなざしも、さりげない気遣いも。
ひとつ残らず、忘れない。
ほんとに、ありがとう。
またね。ばいばい、制服のわたし。
(了)
縦書き版
新しい場所、新しい自分
春の風が頬を撫でる。
桜の花びらが舞い落ちる中、私は湯川学園の正門の前に立っている。
新しい制服が少し硬く感じて、肌に馴染むまでには時間がかかりそうだ。
鞄の中には、昨日、何度も確認したスケジュール帳が入っている。
入学式、ホームルーム。そして、人生初の「新しい場所」。
「やれるかな……」
小さな声で呟く。この声は誰にも届かない。私自身の不安を押し込めるためだけに発した言葉だから。でも、ほんの少しだけ、その言葉に勇気を感じる。自分でも不思議だ。
校門をくぐると、賑やかな声と笑顔が目に飛び込んできた。どの声も、どの笑顔も知らない人たちのもの。でも、きっとこの先、少しずつ変わっていくのだろう。
一人ひとりの顔が覚えられ、名前が浮かび、会話が自然になって――
「私もここで生きるんだ」と実感できる日が来る。
教室のドアを開けた瞬間、すべてが一度に目に飛び込んでくる。白いカーテンが揺れる窓際の席、教科書や筆箱を並べる生徒たち、そして、彼の姿――。
まだ名前も知らないその少年が、静かにこちらを見ていた。目が合った瞬間、微かに笑みを浮かべて、そしてすぐに視線を逸らした。心の奥で何かが動いた。まだ形にはならないけれど、初めての出会いが私に新しい感情の芽生えを告げていた。
「おはようございます、湯川学園へようこそ」
担任の声が響き、教室の中のざわめきが一瞬だけ止まった。私は深呼吸をして、彼らの中に飛び込む準備をする。
「私、変われるかな」
心の中でそう問いかけながら、笑顔を作った。新しい私の始まりだ。
幼さの向こうに見つけた「好き」
最初に見たとき、正直ちょっと地味な子だなって思った。
入学式の日、隣の席に座ってたあの子は、誰とも目を合わせずにずっと下を向いてて、髪も顔にかかってて。「友達できるかな……」って呟いた声が、やけにリアルで、なんかこっちまで緊張したのを覚えてる。
でも、一ヶ月したら変わった。髪をピンで留めて、前よりちょっと顔が見えるようになってて。なんか、ピースサインとかし始めたし。謎にちょっかい出してくるし、たまにめっちゃ変なこと言うし。思ってたより、元気なやつなんだなって。
半年経った頃には、なぜか髪を短くして、変な後悔してて。
「短くしすぎた……」って何回も言ってて、あれはちょっと笑った。しかもそのくせ人前ではちゃんと笑顔でピースしてて、なんか偉いなって思った。
一年が過ぎた頃には、もうすっかりクラスの人気者って感じで。前より明るくなって、よく喋るようになって、友達も増えて。それなのに、俺のことはずっとからかってきて。
ピースピースってうるさいし、カメラ向けると変な顔するし、でも――
その笑顔が、やけに目に焼き付くようになったのは、その頃からだった。
そして卒業式。
金髪になって、ポニーテールで、まるで別人みたいな顔で、卒業証書持って振り返ったあの瞬間。
「何見てんだよ」って言われたけど――
いや、そりゃ見るだろ。ずっと一緒にいたんだぞ?
三年間、笑ったり怒ったり、なんか急に雰囲気変わったりしながら、隣にいたんだ。今さら見とれるなって方が無理だ。
……なぁ、知ってた?
お前の変化、俺、たぶん誰よりも見てたんだぜ。
隣にいてくれて助かった
俺はたぶん、勉強とか静かな時間とか、そういうのがすっげー苦手なタイプだった。小学校までは、それでもなんとかなってたけど、中学入ってからは毎日がマジで大変でさ。
体育と部活だけが頼りの毎日。
だから、入学当初は「やべーなこの先」って、内心焦ってたんだ。
そんなとき、俺の前の席に座ったのが、あいつだった。
ちっちゃくて、おとなしそうで、話しかけても最初は「うん」とか「そうなんだ」くらい。でも、なんか……いつも俺の話をちゃんと聞いてくれてたんだよな。相槌の打ち方とか、返すタイミングとかが、自然で。
「あー、ちゃんと聞いてくれてんだな」って、妙に安心できた。
授業中に俺がノートとってなかったときも、何も言わずに、自分のノートをスッと見せてくれた。「写す?」って、ほんの小声で。しかも字がきれいで、図とかも色分けしてあって、すげー分かりやすかった。俺、なんかそれ見てちょっと恥ずかしくなってさ……
それからは、ノートだけは真面目に取るようになった。
テスト前には「ここ、出そうだよ」って、自分のまとめノートをコピーして持ってきてくれてさ。「いいのか?」って聞いたら、「うん、教えるの好きだから」って笑って。そういうとこ、ズルいんだよなあいつ。
優しいっていうより、なんかこう……空気みたいに当たり前にいてくれて。
気がついたら、俺の中で「特別」になってた。
体育祭のリレーで、俺がゴールした瞬間に、まっすぐ駆け寄ってきてくれて、「かっこよかったよ!」って、あの笑顔で言われたとき――
正直、それだけで全て報われた気がした。
俺、きっとアイツに、支えられてたんだと思う。何気ない一言とか、笑顔とか、ノートの中のきれいな文字とか。それがなかったら、もっとしんどかったと思う。
なあ、今だから言うけどさ――
あのとき、隣にいてくれて、マジで助かったんだ。ありがとう。
置いていかれた気がして
最初に仲良くなったのは、小学校に入ったばかりの春。
私のとなりの席で、まんまるい目をして、お弁当のふたを開けられなくて困ってたあの子を見て――思わず手を伸ばしたのがきっかけだった。
それから、ずっと一緒にいた。一緒に帰って、一緒に宿題して、休日はお互いの家を行き来して。親にも「もう姉妹みたいだね」って言われるくらい、ずっと、ずっと。
でも――中学に入って、少しずつ変わっていった。
前よりキレイな髪留めを選ぶようになって。文房具も可愛いの揃えて。制服の着こなしだって、いつの間にか、ちょっとだけ垢抜けてて。
「え、そんなの持ってた?」って聞いたら、「ううん、最近買ったんだ~」って、当たり前みたいに笑うその顔が、なんだか少しだけ、遠く感じた。
私が知らないあの子が、クラスの中にはたくさんいる。男子と気軽に話して、スキンシップだってぜんぜん平気で、誰とでも楽しそうにしてて。
前は、私とだけ笑ってたのにな――って、思っちゃう私は、ちょっと子どもすぎるのかな。
変わっていく彼女を、私はただ見ていた。
手を伸ばせば届く距離なのに、どうしてか、何も言えなかった。
でも、それでも。
あの子が困ってるとき、泣きそうな顔をしてるとき、私のことを探してくれるのは、きっと今でも私だけ。
それが、少しだけ誇らしかった。
だから、離れないよ。どんなに変わっても、どんなに遠くなっても。
だって私は――ずっと前から、あなたの隣にいたから。
あんた、案外やるじゃん
最初はさ、正直ぜーんぜん気にしてなかった。
まじめそーで、地味そーで、なんかテンション合わなそーって思ってたし。休み時間とかも、いつもおんなじメンツといてさ。ほら、そーいう子いるじゃん? 自分の世界で生きてますみたいな。
でもさ、ある日うち、図書室で宿題忘れて焦ってて。
そしたら、その子がさ、すってシャーペン差し出してくれて、「どうぞ」って。しかも、めっちゃふつーに! めっちゃ自然に!
……え、なにそれ。カッコよ。って思っちゃったよね。しかもさ、それがめっちゃいい香りすんの。あーこの子、こう見えてちゃんと「女の子」してんだ、って。
なんかその瞬間から、気になり始めちゃったんだよねー。
で、そこからよ? ちょこちょこ話すようになって、一緒にプリ撮ったり、スタバ寄ったり、スカートの折り方相談したり――
気づいたら、なんかふつーに友達になってた。
あの子、しゃべるとめっちゃ素直で、すぐ照れるくせに否定はしないし。なんかさ、そういうとこがズルいんだよ。あたしらがノリで「ギャル化計画~」とか言っても、困った顔しながら付き合ってくれるし。
で、最終的にはめっちゃ似合っちゃってるし!
正直ね、あの子、あたしたちの中じゃイチバン「伸びしろ」あったと思う。最初からキラキラしてる子より、だんだん変わっていく子の方が、惹かれるっていうか。
……って、あたし何語ってんの? らしくないじゃん、マジうけるんだけど。
でもまあ、まとめるなら――
あんた、案外やるじゃん。あたし、好きよ、そういうの。
わたしの心のなか
ねえ、みんな、ありがと。
直接言うのは、なんか照れるから、ここでだけ。心の中でだけ。
三年前のわたしは、正直言って――地味で、平凡で、なんとなく人の顔色をうかがってばっかりの、つまんない子だったと思う。
でも、君たちと出会って、ちょっとずつ、変われた気がするんだ。
最初に話しかけてくれたのは、あの中二っぽい男子だった。
口は悪いし、すぐ茶化すけど、何気に目ざとくて、ちょっとした変化にも気づいてくれて。
君がぼそっと言った「可愛いじゃん」って、その一言、実は今でも覚えてる。
わたしのことなんて誰も見てないと思ってたからさ、すっごく嬉しかったんだよ。…言わないけどね!
体育の時間に、一緒にバスケしたことあったよね。スポーツ万能男子くん。
本気でやってたら、「やるじゃん」って目を丸くして言ってくれた。
誰かにちゃんと認めてもらえたって感じがして、その日からちょっと、背筋が伸びた気がする。
一番長い付き合いの親友ちゃんは、たぶん、全部見透かしてたよね。
わたしが「ちょっとだけ可愛くなりたい」って思ってるの、ずっと前からバレてたんでしょ?
さりげなくヘアピンくれたり、放課後にメイクの話してくれたりしてさ、ほんとズルいよ。優しすぎるんだもん。
でさ――あのギャル女子。最初はマジで苦手だった(笑)
声でかいし、距離近いし、テンション高すぎだし。
でも、いつの間にか一緒にプリ撮ってて、「もっと攻めた服着なよ〜」って言われて、
ふと鏡見たら、ちょっとだけ自分のこと好きになれてるわたしがいた。
中学三年間、あっという間だったけど。
いろんな人と関わって、ぶつかって、笑って、泣いて――
気づけば、卒業式の日のわたしは、ちょっとだけギャルで、でもちゃんと「わたし」だった。
みんながくれた言葉も、まなざしも、さりげない気遣いも。
ひとつ残らず、忘れない。
ほんとに、ありがとう。
またね。ばいばい、制服のわたし。
(了)